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疾患についての情報を流し、患者あるいはその疾患予備軍に、自分がその疾患であることを気づかせ、自覚を促して医療機関へ足を向けさせる目的で行う広告。

罹患の際の症状等をマスメディアで提示することで、未受診患者の掘り起こしを行います。

製薬企業提供あるいは協賛による疾患についてのCMや広告(新聞・雑誌)を、見たことがある方は結構いると思います。

高血圧、高脂血症、鬱病、糖尿病、不眠症など、一般大衆がかかりやすい病気(疾患)についての広告が良く目に付きます。

しかし、医薬品の名前は絶対に書いてありません。

その製薬企業の医薬品ブランド名は出せなくても、製薬市場自体を拡大させることができ、結果として、その製薬企業の医薬品の売上も増えます。

もし、来院した患者が、その広告の提供主である製薬企業の名前を覚えておいてくれれば、医師にその製薬企業の医薬品を処方して欲しい、と頼むかもしれません。

そんな、ささやかな期待とともに、疾患についての情報提供を行うこれらの広告を、「疾患啓蒙広告」と呼びます。

なお、「啓蒙」という言葉だと、「偉い人が一般庶民に教えてやる」というような、立場の上下関係が想起されることから、「疾患啓発広告」、「疾病啓発広告」と呼ぶ場合もありますが、中身は全く同じです。

現在の日本において、疾患啓蒙広告は、
DTC広告の中で最も代表的な広告です。

もし、日本においても、医薬品のブランド名を出せるようになれば、DTC広告の市場は大きく拡大すると思われます。

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だいぶ昔のことになりますが、佐野史郎夫妻やサッカーの神様「ペレ」が出演したED(勃起障害/勃起不全)のCMが記憶に残っています。そう、あの「バイアグラ」を開発したファイザー製薬のCMです。

日本で初めてマスメディアを積極的に活用したDTC広告/疾患啓発キャンペーンでした。1999年からスタートし、4年以上継続されました。

EDは、これまで、「インポテンツ」「インポ」と呼ばれ、さげすまれてきた疾患であり、なかなか、医師にかかろうとする男性はいませんでした。

しかし、50代の男性の約50%、40代の男性の約20%がEDであるとされ、日本における潜在患者は1000万人近くになるとの事。

「EDは治療可能であること」
「すでに世界で何百万人もの男性が治療を受け、EDを乗り越えていること」
「まずは医師に相談してほしいこと」
サッカーの神様とまで言われた、
あのペレ自身の口から直接語らせることにより、患者が勇気付けられ、希望を持つのです。

もちろん、ペレとは誰か分からなければ効果は半減しますが。

@ EDは恥ずかしい病気ではないということ。

A 高血圧や糖尿病といった生活習慣病や、ストレスや煙草、お酒などによって、誰でもかかりうるごく普通の病気だということ。

B 薬によって、治療・改善が可能だということ。

最初のステップは、このようなイメージ転換によって、まず患者自身に、自信と正確な情報と希望を持たせること。

次のステップは、患者を医療機関に行かせ、診療を受けさせること。

患者は、医師に対して、
「ファイザー製薬のCMを見て来ました。あの会社の薬を処方して下さい。」
と言うに決まっています。

「バイアグラ」という製品名を出さなくても医師には通じます。

それに対して、わざわざ別の薬を処方しようとする医師は少ないでしょう。

 
 

確かに、疾患啓蒙広告を行えば、その疾患に対する市民の認知及び意識は高くなり、医療機関に行って診断を受ける患者の数は増えるかもしれません。

しかし、医療機関では、広告主である製薬企業の製品を必ずしも処方してくれるとは限りません。

通常、医師はその疾患の治療薬の中で、
最も効果の高い、あるいは、
最も副作用が低い、あるいは、
最もシェアが高い、あるいは、
最も有名な、あるいは、
最も薬価が低い、あるいは、
懇意のメーカー
医薬品を処方するものです。

日本における疾患啓蒙広告では、医療用医薬品の製品名を広告中に表示することができないので、それを見て医療機関に行った患者も、何というクスリを処方して欲しいか分からない。

結局、クスリの選択は、医師任せになってしまうのです。

このため、仮に業界2位以下の製薬企業が莫大な費用を使って疾患啓蒙広告を行っても、その成果のほとんどは、トップ企業や自社より上位の企業に、持って行かれてしまう。

これほど馬鹿らしい話はないですね。

疾患啓蒙広告は、ファイザー社のバイアグラのように、その疾患に効く治療薬が他にない場合や、その疾患においてトップシェアを保っている場合にのみ、有効な方法なのです。

もちろん、製品名を広告中で表示できるようになれば、事態は一変するでしょう。

いかに、視聴者の記憶に残る広告やCMを作れるかどうかが売上に直接つながってきます。

ここは、広告代理店及び広告制作会社の力量で決まってきます。

こうなると、医薬品の広告はもはや、普通の消費財の広告とほとんど変わらないものとなるでしょう。

 
 
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